心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
コイツは本気で言っているのか?
こんなにも堂々と、仕えている当主を裏切ると。
……おもしろい。
グレイはニヤリと笑った。
口先だけで敬意を表してくるヤツよりも、断然おもしろいではないか、と。
「……お前、どこまで知っている?」
「この家のことならば大抵のことは存じております。グレイ様が、イザベラ様の部屋から別邸の鍵を持ち出していることも。別邸に入り、あの少女に会っていることも」
「……そのこと、あの女には……」
「申し上げておりません」
「なぜ、今になって俺にこんなことを言い出したんだ?」
「何も求められておりませんでしたから」
「……何?」
ずっと無表情だったガイルの顔が、少しだけ寂しそうな顔になったようにグレイには見えた。
眉が少し下がり、その瞳から何かを訴えかけているように感じる。