心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイはただ立ち尽くしたまま、マリアの怪我を観察していた。
最初から持って来ていたのか、そしてどこに隠し持っていたのか、ガイルは包帯などを取り出して傷の手当てをしている。
殴ったような痕に、細かい切り傷。
ナイフではなく爪……か!? 顔にまでついている。
まさか、あの女がここまで節操ないとは……!
グレイがぎゅっと拳を握りしめると、レオが声を上げた。
「マリア!! 気づいた!? 大丈夫!?」
「マリア!」
マリアが目を覚ましたことに気づいたグレイは、すぐにマリアの近くに寄った。
目をうっすらと開けているが、月の隠れてる日だからかその黄金の瞳にいつもの輝きはない。
ぼーっとした様子でグレイとレオのほうに視線を向けてくる。
「…………おにい……さま……?」
「大丈夫か、マリア。何があった?」
「…………?」
グレイの質問に、マリアは答えない。
質問の意図がわかっていないようなマリアの反応に、グレイはガイルをギロッと睨みつけた。