心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「どちらへ行かれるおつもりですか?」
「……あの女の部屋だ」
「イザベラ様はまだお戻りになっておりません」
「わかっている。鍵を奪って、部屋を荒らしておくだけだ」
「……それも良いお考えですが、イザベラ様はあと数分でお戻りになりますので、こちらでお待ちいただいたほうがよろしいかと思います」
「なんだと?」
階段を降りようとした足をピタリと止めて、グレイはガイルを振り返った。
ガイルはすぐ近くの窓を開けて、少し離れた場所にあるこの家の門を見つめている。
まさか……という言葉を出そうとした時、馬車の走る音が遠くから聞こえてきた。
グレイが窓から覗くと、イザベラの使っている馬車が門を通ろうとしているところであった。