心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
元々愛情深い父親ではなかったが、それでも突然姿を見せなくなった彼に対して、妻のイザベラと息子のグレイは戸惑いを隠せず精神的に追い込まれていく。
ジュード卿の妻イザベラは、大人しく可憐な女性であった。
そのような行動をした夫を非難することもなく、見知らぬ女に暴言を吐くこともなく、1人静かに部屋にこもってしまった。
もう何年外に出ていないのだろうか。
幼い息子の呼び声にも答えず、彼女はこの日から夫だけでなく息子の顔を見ることもなくなった。
時折部屋を破壊している騒音や彼女の奇声が屋敷に響き渡ることがあるが、誰1人として彼女に声はかけない。
落ち着いた頃に、使用人が掃除をしに部屋を訪れるだけだ。
そんな幼少期を過ごした1人息子のグレイは、見目麗しい美少年に成長していた。
学園ではその見た目と驚くほどの頭脳の持ち主ということで、生徒や教師からは一目置かれている。
部分的にシルバー色が混ざっている艶のある黒髪。
めずらしい髪色だったが、端正な顔立ちと合わせるとそれすらも美しく見えていた。
しかし美しい見た目と反し、彼に思いやりや優しさというものはなかった。
困っている人や泣いている人を見ても、彼の心が動かされることはない。勉学は優れているが、人の感情に関わる部分は不得意であった。