心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「昼食を一緒にとれなくて悪かったな」

「大丈夫です」


 マリアの向かい合わせになるようにグレイが座ると、呆然としていたエミリーがハッとしたように慌てて寄ってきた。

 グレイの口から「悪かった」という言葉が出てきたことに、ここにいたメイドが皆驚いていたのである。


「グレイ様もお召し上がりになりますか?」

「いや、いい。飲み物だけくれ」

「はい……っ」


 エミリーが紅茶を淹れている間、グレイは疲れたような顔でマリアがケーキを食べている様子を見ていた。

 見られているのが気まずくてマリアが食べるのを止めると、グレイはケーキを睨みつけながら「不味いのか?」と聞いてくるので慌てて「美味しいです」と言ってまた食べることになってしまうのである。
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