心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 ガイルもすでにグレイからは離れた位置に戻っていたため、自身の罵声がガイルに聞こえていたという事実にグレイは驚いて振り返った。

 手を後ろで組むようにして姿勢良く立っているガイルは、『場所をわきまえてくださいね』という目でグレイを無言で見つめている。

 グレイは呆れたようにガイルから目をそらした。

 手にキスをされたマリアは、その後からずっとうつむいているエドワード王子の顔を覗きこむようにして優しく声をかけた。


「……エドワード殿下?」


 名前を呼ばれた王子は一瞬ビクッと身体を震わせると、拳をぎゅっと握りしめた。
 そしてゆっくりと真っ赤になった顔を上げる。

 その目はどこを見ているのやら、マリアとは全然違う方向を向いたままぶっきらぼうに返事をした。


「……なんだ?」

「あの、なんでマリアの手に口をつけたんですか?」

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