心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
カツカツと足早に客間に向かうと、長いソファに座っているエドワード王子がグレイを見るなりニヤリと笑った。
ムッとした感情を心の内に隠し、グレイはニコッと嫌味たっぷりの笑顔を返す。
「これはこれはエドワード殿下。突然お約束もない状態でお越しになるとは一体どうされたのですか?」
「マリアが忙しくて王宮に来れないと言っていたからな。この俺がわざわざ来てやったというわけだ」
「そうでしたか。ですが忙しいのは本当なので、短い時間しか作れないと思いますが……」
「短い時間でも構わないが?」
ニコニコと不自然なくらいに笑顔のグレイとエドワード王子。
王宮で会った時と同じように、バチバチとした火花が散っているようである。
エドワード王子の後ろに立っている王宮の執事とグレイの後ろに立っているガイルが、2人揃ってまた呆れたように小さくため息をついた。
部屋の周りでその様子を見ているメイド達は、なんとも言えないピリピリとした空気に顔を青くしている。
グレイはエドワード王子とテーブルを挟んだ反対側のソファに腰をかけた。
普段無表情なグレイが笑顔になっていることに、メイド達はさらに恐怖を感じている。