心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「わざわざ王子であるエドワード殿下のほうからいらしていただけるとは思いもよりませんでした。殿下も忙しい方だと思っておりましたが、意外と時間に余裕がおありのようですね」
グレイは遠回しに『王子はやることもなくヒマなんだな』という嫌味攻撃を繰り出した。
エドワード王子は左目をピクッと引きつらせると、作り笑いをしたまま言い返す。
「俺は優秀だからな。日々の教養の時間もあっという間に終わらせることができるんだ」
エドワード王子の後ろに立っている王宮の執事が、ん? といった顔をして斜め上に視線を向けている。
それに気づいていない王子は話を続けた。
「聖女のセレモニーでは誰がマリアと最初のダンスを踊るのか、と皆が気になっている。注目を集めるだろうから、事前に合わせて練習したほうがいいと思って来てやったのだ」
ふふん! と偉そうに言っている王子を見て、グレイは作り笑顔の仮面を剥がした。
「……なぜエドワード殿下がマリアと最初のダンスを踊ることになっているのですか?」
「はぁ!? それはこ、婚約者なんだから当然だろ!」
グレイがジロッと王宮の執事を睨みつけると、執事はふいっと目を瞑って気まずそうに顔をそらす。
その執事の態度で、王宮……少なくともエドワード王子の周りでは王子とマリアが婚約者という話になっているというのがわかる。