心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「お話の途中に失礼します。グレイ様には現在婚約者はおりません」

「なんだ、そうなのか」

「……っ!」


 ガイルの言葉を聞いて、エドワード王子は残念そうにそうつぶやき、マリアはパァッと瞳を輝かせた。

 グレイに婚約者がいないことを今ここでわざわざ言う必要はない。
 あとでマリアにだけ伝えることもできる。

 しかしガイルは悲しそうなマリアの顔を見ていられなかったため、つい口を挟んでしまったのである。
 そしてそれはメイド達も同じ気持ちであった。


(マリア様、グレイ様に婚約者がいないとわかってあんなに嬉しそうに……!)


 安心した様子のマリアを見て、ガイルやエミリー、メイド達もホッと胸を撫でおろした。

 グレイとマリアは血の繋がった実の兄妹ではない。
 ただ兄と呼ばせているだけであり、ただ兄妹として過ごしているだけである。
 結婚だって、しようと思えばできるのだ。

 しかしマリアはそこまで細かいことはわかっていなかった。
 エドワード王子も血が繋がっていないことは知らないらしい。

 今ここでそれを伝えたら多少の混乱が生じると考えたガイルは、そのことについては触れないことにした。

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