心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 そしてその2人が死んだ今、聖女の存在を知ったイザベラが、引き続き子どもを利用している。
 家に金が溢れているのは、聖女の力で稼いでいたからだったのだと、グレイは確信した。

 グレイ自身気づいてはいないが、彼は子どもに同情していた。


「お前は……俺よりも不幸なヤツだな。聖女として生まれたなら、王宮で贅沢な生活を送れるものを。強欲な人間に見つかったせいで、こんな場所でこんな暮らしをしているとは」


 子どもは理解しているのかしていないのか、真っ直ぐにグレイを見つめている。
 瞬きをするたびに、金のカケラがこぼれ落ちていくように見える。


「お前に名前はあるのか?」


 子どもは少し間を置いてコクリと頷いた。
 

「そうか……。なんていう名前なのか……」


 子どもは頷くか首を振るかでしか答えない。
 イエスかノーでしか答えられないのだから、グレイが子どもの名前を知るすべはない。
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