心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
51 月のない夜①
グレイがガイルから恋心を勉強しろと言われた次の日。
執務室にあるグレイの机の上には、恋愛小説が数冊置かれていた。
メイド達から借りたものなのか、無表情執事が買ってきたものなのか、タイトルを読むだけでグレイは鳥肌が立ちそうになった。
あいつ……本気で俺にこれを読んで勉強しろと言いたいのか!?
グレイは小説の表紙すらめくることなく、そのまま執務室にある小さなテーブルに本を移動させる。
そして何事もなかったかのように椅子に座ると、書類を机に広げいつも通り勉強を始めた。
放置されている小説に気づいていながら、ガイルが追求してくることはなかった。
本人にその気がないのであれば、本を読んでも無意味だとわかっていたからである。
しかし、その小説は片付けられることなくずっと執務室に置いたままであった。
直接は何も言ってこないものの、ガイルが『早く読みなさい』と思っていることは明確である。
そんなガイルの思いに気づいていながら、マリアが傷ついている件については時間が経てばなんとかなるだろう、とグレイは軽く考えていた。