心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
適当な名前を言ってみる方法しかないのか。イザベラは知っているのか。
グレイがそんな事を考えていると、突然小さな音が聞こえた。
儚くてキレイな、可愛らしい声。
「…………マリア」
「…………え?」
「…………」
グレイは子どもと見つめ合った。
今までこちらが何か命令するまでは動かなかった子どもの手が、ぎゅっと自分のスカート部分を握りしめている。
「……今、お前が喋ったのか……?」
子どもはコクリと頷く。
「もしかして名前を言ったのか? なんて言った?」
「…………マリア」
グレイの目を見つめたまま、子ども……マリアは初めてグレイの前で声を出した。