心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「本日は月のない夜でございますね」


 夕食後、紅茶を飲んでいたグレイに向かってガイルがつぶやいた。


「あの夜からまだ1ヶ月しか経ってないんだな」


 いきなりどうしたんだ? と不思議に思いながら、グレイも静かにつぶやく。

 ほんの1ヶ月前までは、マリアは別邸の檻の中に監禁されていた。
 イザベラからの虐待の痕を見つけて、助け出したあの日がもっとずっと昔のことのように思える。


「マリア様はこちらに来てから本来の明るさを取り戻されたような気がします。笑顔も増えましたし、たくさんお話もしてくださるようになりました」


 笑顔のマリアを思い浮かべているのか、ガイルの表情が優しくなる。

 ガイルは続けて『本来の明るさを取り戻しつつあるのはグレイ様も同じです』と言いかけて、それは言わないことにした。
 この天邪鬼にそんなことを言えば、また心を閉じようとするかもしれないと思ったからである。

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