心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

52 月のない夜②

 
 月のない夜。聖女の力が使えず、黄金色の瞳が輝きをなくす日。

 マリアの身体に特に不調などはないが、なぜかこの日は毎回気持ちが暗くなる。
 マリアにとって、小さい頃からあまりいい思い出のない日だからだろうか。

 前回の月のない夜に、グレイがあの檻から屋敷からイザベラからマリアを解放した。
 マリアにとって、初めて幸せを感じることのできた日であった。

 あれから1ヶ月。
 マリアはボーーッと窓から見える月のない夜空を眺めていた。 

 部屋の大きな窓のすぐ近くに椅子を置いて、そこに三角座りの姿勢で座っている。
 檻に監禁されていた時も、いつもこうして眼帯を透かして夜空を見上げていた。

 最近、マリアは自分の中の不思議な感情に振り回されている。

 グレイに会うと、嬉しい気持ちと幸せな気持ちが溢れてきて……そしてなぜか切なくなる。

 切ない……という感情がよくわからないマリアは、泣きたくなるような寂しいような悲しいような、そんな不思議な気持ちに戸惑っていた。


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