心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「……部屋が暗いが、教養の勉強中じゃなかったのか?」
「え? 今日はもうおしまいだってエミリーが……」
「……そうか。……あの能面執事が」
「のうめ……?」
「いや。なんでもない」
グレイは執務室の方角に向かって睨みをきかせながら小声でつぶやいたあと、マリアの後ろにある大きな窓に目をやった。
マリアもつられて窓に視線を向ける。
「夜空を見ていたのか?」
「うん。月はないけど、星はたくさんあって綺麗なの」
「そうか」
「明かりつける?」
「いや、このままでいい」
グレイは部屋の真ん中に置いてある椅子を持ち上げ、窓の近くにあったマリアの椅子の隣に置いた。
そしてその椅子に腰をかけると、マリアも座るようにと手で合図をする。
マリアがどこか恥ずかしそうにちょこんと隣の椅子に座るのを、グレイはジッと見つめていた。