心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「……うん。『結婚』したらずっと一緒に暮らしていけるって言ってたから」
その言葉を聞いて、グレイはそういうことかと納得したようにうんうんと頷いている。
「そうか。でも安心しろ。結婚なんかしなくても、俺とマリアはずっと一緒に暮らしていける」
優しく安心できる言葉をかけてもらったというのに、マリアの心は素直に喜べていなかった。
それよりももっと気になることがあったからである。
マリアは無意識のうちに、それを言葉に出した。
「……お兄様が結婚しても?」
「え?」
ポソッとつぶやいたマリアの声は本当に小さく、グレイの耳には届かなかった。
「今、なんて言ったんだ?」
グレイが聞き返すと、マリアは一瞬迷ったように視線を泳がせたが、グッと拳に力を入れると真っ直ぐにグレイの目を見てきた。
マリアの不安な気持ちが黄金色の瞳に漏れている。
「お兄様は……いつか誰かと結婚するの?」