心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
53 月のない夜③
「お兄様は……いつか誰かと結婚するの?」
マリアは上目遣いでジッとグレイを見つめた。
最近はずっと避けられていたため、こんなに真っ直ぐにマリアの瞳を見たのは久しぶりであった。
マリアからの意外な質問に、グレイは眉をひそませる。
即答できずにいるのは、マリアに問われるまで自分の結婚について考えたことがなかったからだ。
結婚? 俺が?
小さい頃に家庭崩壊を目の当たりにしたグレイは、『結婚』になんの魅力も感じない。
本音を言えば「しない!」と即答したいくらいに興味のない話だったが、マリアの表情がやけに真剣だったのでグレイは真面目に考えてみることにした。
俺が誰かと結婚をするのか……?
どんなに想像してみようとしても、顔なしの女性の姿がボヤ〜と頭に浮かぶだけでうまく想像できない。
学園のクラスメイトに女性は何人かいたが、誰1人として顔を思い出すことすらできずにいる。
グレイは手を口元に当てて、ボソッと答えた。