心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 最後に何かマリアを喜ばせる、安心させる言葉を言わなくては……。
 だけど何を言えばいい?
 もう一度、自分が結婚してもマリアのことを邪魔に思わない、と伝えるべきだろうか。



 グレイは椅子から立ち上がると、隣でうつむいたままのマリアを横目に見た。


「では俺はもう戻る。マリア……その、もう一度言っておくが、たとえ俺がけっこ……」

「グレイ様!」


 グレイが話している途中だというのに、ガイルに名前を呼ばれて言葉が途切れた。
 主人の会話を遮るなど、普通ならばありえないことである。

 ムッと頭にきながらも、グレイはそんな不自然な行動をしたガイルを責める気持ちはなかった。



 ……あいつが止めたということは、これはきっと言わないほうがいいってことなんだな?



 ただ名前を呼ばれただけだというのに、その意図をグレイはしっかりと理解していた。
 そうでなければ、あの無表情執事がこんなことをするはずがない。

 話を途中で止めたままのグレイを、マリアは少し不思議そうな顔で見上げる。

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