心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

54 美しい聖女と真っ黒な美少年伯爵


「ちょっと……グレイ、何あの本……」


 レオが部屋のサイドテーブルに置いてある小説を指差して、怯えた顔で尋ねてきた。
 あの本とは、2週間前ガイルに無理やり手渡された例の恋愛小説である。


「あの本がどうかしたか?」

「どうかしたかって、ま、まさかグレイが読んでるの? マリアのじゃなくて?」

「なんでマリアが読む本が俺の部屋に置いてあるんだ」


 グレイは袖の小さいボタンを留めながら、顔色ひとつ変えずに答える。
 あまり触れられるのを良く思わないグレイは、できる限りメイドの手伝いなしで自身の着替えをするようにしているのだ。

 そんなグレイの隣では、メイド長のモリーが次に身につける物を持って静かに待機している。

 
「じゃあ本当にグレイが読んでるの? この、初恋に芽生えた皇太子……」

「タイトルを読み上げるな」


 真面目な顔した少年2人の会話を黙って聞いているモリーは、その微笑ましさにプッと吹き出しそうになるのをこらえていた。
 時々肩が震えてしまっていることに、グレイだけは気づいている。

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