心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイはレオを蹴り上げて部屋から追い出したい衝動に駆られたが、今日という神聖な日にやめておこうと思いとどまった。
そう、今日はとうとうマリアが聖女として国民の前に姿を見せる日。
聖女セレモニー当日なのである。
「それ以上笑うなら、お前はここに置いて行くぞ」
「ごっごめんって……くく……! せ、せっかくなんだし、一緒に行こうよ……」
レオはなんとか笑いを止めようとしているらしく、恋愛小説が置いてあるサイドテーブルのほうを見ないようにして会話を続けている。
今日もまた呼んだ覚えはないのだが、朝からいきなりレオがやってきた。
グレイの部屋に入るなりあの本を見つけて、今のこの状態になっている。
「せっかくの正装が台無しだな。髪がいつも以上にボサボサになってるぞ」
「あっ……しまった!」
ハッとして髪を整え始めたレオは、口を尖らせて「というか、いつも以上ってなんだよーー!」と文句を言った。
ふわふわの茶色い猫っ毛を、両手で押さえつけている。
そして着替えが完了したグレイを見て、クリッとした大きな目を輝かせた。