心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
12歳になったグレイは、父であるジュード卿が誰と過ごしていようがもう気にもとめていなかった。
しばらくは頭から離れずにいた女の顔も、その赤ん坊の顔も、今となっては思い出せない。
数年もの間、父と顔を合わせていないことにも気づいていなかった。
グレイの頭の中では、もう父のことなど消え去っている。
同じ屋敷に住んでいる母イザベラとも、グレイはもう何年も顔を合わせていない。
もちろんそのことも気にしてなどいなかった。
昔は耳を塞いでしまうほど嫌悪していた母の突如の叫び声や狂った笑い声も、今では耳を塞がなくとも聞こえてくることはない。
脳が完全に母を遮断しているのだ。
グレイの頭からは、母のことすらも消え去っていた。
そうして家族バラバラに過ごすようになって数年……変化は突然訪れた。
ジュード卿と女が外出先で事故に遭い、2人とも死んだのである。
執事のガイルからそう報告を受けた時にも、グレイにはなんの感情も湧かなかった。
口から出た言葉は「そうか」の一言。頭の中に浮かんだのも、それだけだった。