心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 それです? な、何がだ?
 まさか、あの男が言っていたようなセリフを言えとでもいうのか? 俺に?



『君はこの世界で一番綺麗だよ』
『その美しい瞳を見ているだけで、僕の胸はうるさいくらいに騒ぎ出すんだ』
『とっても可愛い君を今すぐに食べてしまいた……』


 ゾワッ

 記憶力の良いグレイの頭に小説のセリフが思い出され、背筋がヒヤリとして鳥肌が立った。
 もうこれ以上思い出さないように、無理やり思考を止める。

 楽しそうにニヤニヤしているレオの顔が、さらにグレイを苛立たせる。
 状況がよくわかっていないマリアは、困った顔でグレイとガイルの顔を交互に見ていた。


「ふざけ……」

「本気でございます、グレイ様。グレイ様にはうすら寒いセリフであったとしても、あのセリフに胸を高鳴らせる女性は多いのでございます」

「!?」


 ガイルの言葉にグレイは混乱した。
 どうしても理解できないことだったからである。



 あれで女が喜ぶ?
 まさか……。そして、それを今マリアに言えと?



 グレイはまだ手をつないだままでいたマリアをチラリと見た。
 マリアも不思議そうな顔でグレイを見つめ返してくる。
 本当にあのようなセリフでマリアが喜ぶのか。


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