心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「聖女様。王宮に着きました。お足元にお気をつけください」
騎士団長が馬車の扉を開け、声をかけてくる。
威圧感のある見た目だが、不思議と恐ろしさを感じない。
マリアは差し出された手に自分の手を重ねると、ゆっくりと馬車から降りた。
前回グレイと来た時と同じ場所。
しかし前回以上にたくさんの人が周りを囲んでいたため、見る景色はまた違って見える。
メイドや執事の格好をした者から、剣を携えた騎士達、そしてグレイやレオのように正装した貴族達。
うわ……あ。
この前よりいっぱいいる……!
あまりの人の多さに、マリアはゴクッと喉を鳴らした。
皆が笑顔でなければ足が震えていたかもしれない。
『この国で聖女マリア様より位が上なのは国王陛下や王家の方々だけです。それ以外の方に簡単に頭を下げてはいけません』
そう教わったことを思い出し、マリアは下を向きたくなる気持ちをおさえて顔を真っ直ぐ前に向けた。
背筋を伸ばし、顎を引く。歩くたびにグラグラ動かないよう、腕は人形のように固定させて軽やかに歩いていく。
視線はあまりキョロキョロさせず、順番に挨拶をかわしてくる人々に微笑みを返すだけ。
この日のために何度も何度も練習して身体に覚えさせてきた。
優雅に歩くまだ幼い聖女の姿に、周りにいた皆は感動して心を奪われている。
皆が本当にマリアを歓迎してくれていることが伝わり、マリアも内心とても安心していた。