心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
マリアの位置からは、まだ下にいる国民の姿は見えない。
向こうからも見えていないはずだが、大きな扉が開いたことによる興奮の声だったらしい。
「聖女様ーー!!」
「聖女、マリア様ーー!!」
わああ……! というたくさんの声の渦の中で、自分の名前が呼ばれていることにマリアは気づいた。
地震が起きたような、ビリビリと建物が揺れているような感覚がする。
これほどの歓声が上がるなんて、一体どれくらいの人が集まっているのか。
マリアは今日初めて手が震えた。
マ、マリアの名前が呼ばれてる……!
ポカンと立ち尽くすマリアはそのままに、まずは陛下と王妃だけが前に進み、国民に顔を出した。
国王の顔すらなかなか見る機会のない平民達は、皆目を輝かせながらこの国の王と王妃に羨望の眼差しを向けている。
続いて王子2人が王と王妃の隣に立ち、国民に顔を出す。
キャアキャアと、先程よりも若い女性の歓声が響いた。
執事と共にまだ扉の横で待っているマリアに、陛下がチラッと視線を送ってきた。
こちらへ来いというアイコンタクトだ。