心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「ふぅーーっ」


 部屋に戻ったマリアは、そう深く息を吐きながらソファにポスッと座り込んだ。
 手を振り続けていたせいか、手首がズキズキと痛む。
 しかし、マリアがそっと手首に触れると痛みがスーッとなくなっていった。

 昔から、自分自身に対する治癒は自動で行われるのだ。

 痛みはなくなったが、マリアは自分の努力の証があっさり消え去ったようで少し寂しく感じた。



 あんなにたくさんの人が、マリアの名前を呼んでくれてた……。
 笑ってくれてた。手を振ったらみんな振り返してくれた。
 手が痛くなってもいいから、もっとたくさん手を振っていたかったなぁ。



「マリア様、お疲れでしょう。温かいお飲み物でもどうぞ」


 王宮のメイドが、マリアの前に可愛らしいカップを置く。
 その紅茶を口に入れると、治癒の力を使った時と同じような暖かな空気に包まれた気がした。

 ふわふわと浮かぶような心地良さ。疲れなんて一瞬で吹き飛んでしまいそうだ。
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