心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
『お前はどうしたいんだ!?』
マリアはどうしたいのか。
執事の気持ちも王子も気持ちも考えず、自分の気持ちを優先するのなら──今日、行きたい。
マリアで役に立つことがあるのなら、やりたい。
それが正直な気持ちだった。
「今から行きます」
「ええっ!」
「よし! じゃあ俺が研究室まで連れて行ってやろう! マルケス、お前は陛下に伝えてから来い!」
「えええっ!?」
慌てている執事をその場に残し、エドワード王子は「行くぞ」と言ってマリアの手を取った。
マリアは心の中でごめんねと呟くと、足早に王子の後について歩く。
広く美しい王宮の廊下を、見目麗しいエドワード王子とマリアが手を繋いで歩いている様子は、通り過ぎる使用人達の心を鷲掴みにしていた。
(まああ……! なんて麗しいお2人なんでしょう!)
(お人形だわ!! お人形が歩いているわ!!)
(なんとお可愛らしい……!)
そんな愛くるしい視線にも気づかず、2人は地下へと続く階段の前までやってきた。
豪華な王宮の中とは思えぬ、異様な空気を発している地下への階段。
「ここに、けんきゅう室があるの?」
「そうだ。地下でしか保管できない薬品があるから、ここで研究していると兄様が言っていた。俺もまだ一度も中には入ったことがないけど……」