心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
綺麗な顔の中心に、横についた長い切り傷。
あの夜にマリアが治せなかった傷跡がなければ、別人だと思っていたかもしれない。
しかし、目の前にいるのは確実にあのイザベラだ。
「一体誰なんだ? それに、なんでこんな女が檻にいる?」
エドワード王子がマリアに尋ねる。
おっとりした静かな婦人が、檻に入っているのが不思議なのだろう。
しかし、マリアはなんて答えていいのかわからず黙ってしまった。
「…………」
「まぁ、いい。行くぞ」
今度こそ力強く腕を引っ張られ、マリアはイザベラから視線を外さないまま外に出されてしまった。
バタンと扉が閉まるその時まで、イザベラがマリアを睨んだりすることはなかった。
「もうお帰りですか?」
扉の前に立っていた騎士が、2人に声をかけてくる。
エドワード王子はジロッと騎士を睨みつけるなり、今出てきた扉をビシッと指差した。
「ここはなんだ!? 研究室じゃないのか!?」
「は……いえ。ここは地下牢でございます。捕らえた貴族が収監されておりますが……え!? そっそれをご存知でいらっしゃったのでは!?」
「地下牢!?」
自分のやってしまった行動を思い返し、騎士は冷や汗をダラダラとかいている。
細かい確認をせずに、王子と聖女を罪人に会わせてしまった若い騎士は顔面蒼白だ。