心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
王子は王子で、自分の勘違いでここに来てしまったことを恥ずかしく感じていた。
2人が気まずい思いをしている間、マリアはずっとイザベラの顔が頭から離れずにいた。
マリアを見ても、睨むことなく優しく微笑んだあの婦人の顔が──。
「エドワード殿下! マリア様!」
「……マルケス!」
騎士と同じくらい顔面蒼白な執事が、物凄い勢いで階段を下りてくる。
「な、なぜこちらへ!? 研究室にいらっしゃらなかったので探してみれば!」
「遅いぞマルケス!」
自分のミスを誤魔化すように執事を責めるエドワード王子を、マルケスは理不尽だ、とでも言いたげな顔で見ている。
しかしすぐに騎士と目を合わせ、事態を把握したようだった。
「……こちらに入られたのですね?」
「ああ。マリアの知り合いらしいが、一体誰なんだ?」
「エドワード殿下。申し訳ございませんが、そのお答えは少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか。この件を、陛下に報告しなくてはいけませんので」
サーーッと青ざめる騎士を見て、マリアは慌てて口を開いた。
「あ、あの。私が会いに来たって嘘をついたの。だから、その、この人は悪くないので……えっと」
「聖女様……!」
マリアに庇われて、騎士は目に涙を浮かべながらマリアに恍惚とした眼差しを向けた。