心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「それから、鞭で打ったり、マリア様が今はどれほど幸せに暮らしているかの話をするなど、肉体的・精神的の攻撃も少々させていただきました」
「…………」
やけに満足げに話す執事を見て、エドワード王子は絶対に自分達に話したこと以上の何かもしているはずだ──と確信していた。
しかし、それを隠す理由がマリアを気遣ってのことだとわかるため、王子は口を挟まずに黙ることにした。
「そうして己の行った行為を味わうたび、イザベラ婦人の様子はおかしくなっていきました。屈辱的な扱いに耐えきれなかったのでしょう……全く。マリア様は1年もの間、耐えてきたというのに」
最後は小さな声でボソッと呟くように言った。
執事の顔には精神不安定になったイザベラへの同情は微塵もなく、まだまだ怒りの感情を残している。
話を聞いているだけで、マリアの胸はイザベラへの同情でズキズキと痛んでいたが、執事は全く痛んでなどいないらしい。
「そして、あの状態になりました。今のイザベラ婦人は、マリア様のこともグレイ様のことも覚えておりません。どうやら、結婚した後の記憶がなくなってしまったみたいです」
「記憶が……ない?」
「はい。医者にも診てもらいましたが、治る可能性も低いそうです。記憶がなければ、反省させるための罰を与えても意味がありません。そのため、今は他の囚人同様、ただ檻に入れているだけです」
「…………」