心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 その後は、言葉が続かなかった。
 
 イザベラに虐待を受けていた頃は、彼女のことが怖かった。
 けど、彼女に傷ついてほしいとか、死んでほしいだなんて考えたことはない。

 一緒に暮らすのはまだ怖いが、先ほど見た彼女であれば問題はないように思える。
 でも、グレイがイザベラ婦人と一緒に暮らすことを望むとは到底思えなかった。



 マリアは、あの檻から出してあげたいって思うけど……お兄様は違うかも。
 お兄様がイヤなことは、マリアはしたくない。



「マリアは、お兄様の決めた通りにする」

「それが、マリア様の希望ということでよろしいのですね?」

「うん!」


 真っ直ぐに見つめながらそう答えると、執事はニコッと優しく微笑みながら「かしこまりました。陛下にはそうお伝えしておきます」と返事をした。

 まるで、マリアがそう答えるとわかっていたかのような顔だった。

 マリアと執事が満足そうに見つめ合っている横で、1人蚊帳の外になっていたエドワード王子が口を挟んでくる。


「なんだか……お前達の話を聞いてると、まるでマリアがあの女に鎖で繋がれて閉じ込められてた……って言ってるみたいに聞こえるんだけど」

「…………」


 マリアと執事は、そうですが? という顔で王子を無言で見つめ返す。
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