心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
赤ん坊を抱えて歩いていたエマの横を、貴族の馬車が通り過ぎて行く。
一度通り過ぎた馬車は、数メートル先で突然停まり、中からスーツを着た背の高い男性が降りてきた。
サラサラの銀髪をなびかせ、氷のように冷たい目をした男性はエマの方に向かって歩いてくる。
「えっ……? な、何……」
小声で呟いたエマは、その迫力のあるオーラに怯えていた。
走って逃げようとしたが、身体が動かせない。
男性はエマの目の前に立つと、不自然なほどの作り笑いをしながら声をかけてきた。
「突然申し訳ありません、レディ。私はヴィリアー伯爵家のジュードと申します。少しだけお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
今までこんなに丁寧に対応されたことのなかったエマは、それだけで少し舞い上がってしまった。
気づいた時には「はい」と返事をして、その男性に案内されるまま初めての馬車に足を踏み入れていた。