心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「ベティーナ!」
「学園以外で会うのは初めてね」
「そうだね。他にもみんなに会ったの?」
「そうね。何人か会ったけど……その、レオはグレイ様と一緒に来たのね」
ベティーナはピンク色に染まった頬に手を当てながら、チラリとグレイに視線を送った。
その熱を帯びた瞳に気づいたレオは、顔に冷や汗を浮かべる。
「あ、ああ。そうなんだ。ベティーナは誰と来たの? 婚約者のダミアン?」
「ダミアンとの婚約は解消したわ。私は今誰とも婚約してないから、今夜のパートナーがいないのよね」
「そ、そっか……」
レオの焦りに気づいていないのか、ベティーナはチラチラとグレイを見ながら話している。
声をかけてほしいと待っているのがバレバレで、グレイは小さく舌打ちをした。
「レオ、先に行ってるぞ」
「待ってよ、グレイ! 俺も行くよ」
「あのっ! グレイ様!」
グレイが背を向けて歩き出そうとしたので、ベティーナが慌てて呼び止める。
無視しようかと一瞬グレイは迷ったが、今自分は聖女の兄として注目を集めていることを思い出し、仕方なく足を止めた。
自分の非情な行いのせいで、初披露前のマリアのイメージを下げたくはなかった。