心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「……なんだ?」

「あのっ、お久しぶりですね。またお会いできて嬉しいです。そのーー、グレイ様が学園にいらした時には私には婚約者がいたと思うのですが、今はもう解消しておりまして……」


 ベティーナはグレイと目が合った瞬間に頬を赤らめ、手を可愛らしく口元に添えながら上目遣いでモジモジと話し出す。

 恥ずかしそうな素振りをしているが、目を離さずに見つめ続けている時点で、この仕草は演技なのだとグレイは見破っていた。
 本当に照れている者はまず視線を合わせない。

 そうまでして自分を内気に見せたい理由がグレイにはわからなかったが、それ以上にこの令嬢が何を言いたいのかがさっぱりだった。



 なぜこの女は、俺に自分の婚約者の話なんかしてくるんだ?



 怪訝そうな顔を隠しもせず、グレイはまず1番に気になっていたことを聞いた。


「そもそも、君は誰だ?」

「え……?」


 シーーン……と一瞬の沈黙。
 ベティーナは口を小さく開けたまま硬直し、レオは片手で頭を押さえながら目を閉じた。

 コソコソとグレイ達の様子を横目で見ていた若い令嬢達が、数人プッと吹き出したのが聞こえてくる。
 今はグレイ達に背を向けてクスクスと笑っている。



 ……なんだ? 何か変なことを言ったか?

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