心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「いい!? 彼女はちょっと、あのーー面倒だから、できるだけ怒らせないように……」

「レオ」

「はいっ!?」


 背後からベティーナに呼ばれ、レオが裏返った声で返事をした。
 小声で話していた内容が聞こえていたらしく、レオを睨みつけている。


「誰が面倒ですって?」

「え? 面倒? だ、誰がそんなことを……ははは……」


 レオは笑って誤魔化しながら、コソコソとグレイの後ろに隠れようとしている。
 何をそんなに怯えているのかわからないが、ここは早く彼女から離れたほうが良さそうだ。


「話がないなら失礼する」


 グレイがそう冷たく告げると、レオを睨んでいたベティーナは慌ててグレイの腕を両手で掴んだ。
 か弱そうに見えて、意外に力があるなとグレイは思った。


「待ってください! あの、久しぶりなので、グレイ様が私を覚えていないのは仕方ありませんわ。これから覚えてもらえれば結構ですから……」

「……なぜこれから覚える必要が? もう会うこともあまりないと思うが」

「グレイッ!」


 疑問に感じたことをそのまま丁寧に伝えているだけなのに、またしてもレオに注意されてしまう。

 これだから女と話すのは嫌なんだ、とグレイは思わずにはいられなかった。
 面倒極まりない。また相手を怒らせてしまったというのか。

 しかし、ベティーナはグレイの腕を離そうとはせずに、やけに顎を引いて上目遣いに見つめてくる。

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