心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
今までも決して優しい声色ではなかったが、さらに低くなった声でグレイは呟く。
「そんな誤情報が、まだ出回っているのか?」
「えっ。あ、あの……」
ベティーナは小鹿のようにガクガクと震えている。
まるで肉食動物に見つかった小動物のようだ。
「あの噂は誤解だと学園で伝えておけと言っておいたはずだが、どういうことだ? ……レオ」
「ええっ!? これ、俺が悪いの!?」
グレイに睨まれたレオは、こちらも小動物のように怯えながらも言い返している。
グレイの怒りの矛先がレオに向けられたことで、ベティーナはホッとした。
今のうちにと言わんばかりの速さで、「では失礼しますわっ」と言って足早に2人から離れて行く。
そんな彼女を見たレオが、呆気に取られた様子でグレイに聞いた。
「……グレイ、もしかしてベティーナが離れるようにわざと怒ったの?」
「はあ? なんのことだ?」
「あ。違うみたいだね」
まだイライラしているグレイを見て、先ほどの威圧も本物だったのだとレオは悟った。