心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「マリア、ちゃんと喋れてたね」
そうレオにコソコソと耳打ちされるまで、グレイは自分が放心状態でいたことに気づかなかった。
「え? マリア、何か喋ったか?」
「聞いてなかったの!?」
いつの間にか陛下や聖女からの祝言は終わり、マリアは同盟国の王や王子達と挨拶を交わしている。
近くにいるエドワード王子の不機嫌そうな顔を見る限り、他国の王子からマリアへ熱い視線でも送られているのかもしれない。
ムスッとしたエドワード王子と違い、兄である第1王子は少し楽しそうに弟の様子を見ている。
「なんだか、マリアというより聖女様って感じがして……嬉しいような寂しいような、変な気持ちになっちゃったよ」
ははっと少し照れたように話すレオを見て、グレイは一瞬言葉が出なかった。
何を言ってるんだ、と言いたかったが、妙に納得してしまったからだ。
そうか。これは寂しいという感情なのか。
先程マリアを遠くに感じた時に、胸に空いた小さな穴。
その原因が寂しさからくるものだと、グレイは初めて知った。
レオと同じ事を考えていたのは不服だが、ここは同調しておこうとグレイは素直な反応を返す。