心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「確かに、そんな感情を抱くのは久しぶりかもな」
「そうだよ! まぁそれだけマリアが大切ってことなんだから、いいことだよ」
「…………」
何かや誰かに対して、大切と思ったこともなかったな。
なぜマリアに対しては、そんな感情を持ってしまうのだろうか。
自分に似た環境……いや、それ以上にひどい環境で育ったマリアに同情しているのか。
それとも、その原因となった自分の両親の行いに罪悪感を感じているのか。
そんな中でも、自分に対して憎むどころか曇りのない瞳で見つめてくるマリア自身に心を動かされたのか……。
「それより、もうすぐダンスだけど……グレイ、踊れるの?」
「今さらそれを聞くか?」
「だって、なんだか緊張してきちゃって」
「なんでお前が緊張するんだ」
レオは周りをキョロキョロしながら、少し青ざめた顔で囁いてくる。
想像以上に集まった貴族達の姿に怯えているようだ。
普段は夜会などにも参加しない年齢なのだから、無理はないだろう。
きっと緊張しない俺のほうがおかしいんだろうな……とグレイは思った。