心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
まだ背の低いマリアは、普通のダンスは踊れない。
この国に昔からある、『幼い姫がお披露目の際に王と踊るダンス』を特別に教わっていた。
このダンスを知っている人は少ないから、間違えても大丈夫。
その言葉を支えに、マリアは必死にダンスを覚えた。
「マリア、上手く踊れているぞ」
「……えへ」
グレイの言葉に、マリアは嬉しそうに微笑んだ。
そんなマリアの笑顔を見て、グレイはある違和感に気づく。
……そういえば、どこかよそよそしかった変な笑顔がなくなったな。
ここ最近、グレイに見せていた不自然な笑顔ではない。
マリアが心から笑っているのが伝わってくる。
「王宮に来て何かいいことでもあったのか?」
「えっ……、うん」
一瞬でマリアの顔がボッと赤くなる。
どこか嬉しそうに、どこか恥ずかしそうな様子で視線を外しながら頷くマリアを見て、グレイの胸にモヤモヤとした黒い影が落ちた。
イラッ
王宮に来て何かいいことがあったとするならば、それはエドワード王子が関係しているのではないか、とグレイは疑っていた。
まさか、マリアが『義理の兄妹だからお兄様と結婚できる!』という事実に舞い上がっているとは、グレイには想像もできなかったのである。
あの生意気王子、マリアに何をしたんだ?
グレイは、遠くに座っているエドワード王子をジロッと睨みつけた。