心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
そして、イライラしているのはグレイだけではない。
エドワード王子も同じ……いや、グレイ以上にブスッとした不機嫌顔で、王子の椅子にどっしりと座っている。
王子の不機嫌な理由に気づいている者達は、遠くからコソコソと噂話を始めていた。
「聖女様はエドワード殿下の婚約者ではなかったの? エドワード殿下とは踊らないのね」
「でも、エドワード殿下がとても悔しそうなお顔で聖女様達を見ていらっしゃるわ!」
「きっと殿下も聖女様と踊りたかったのですわ」
(なんてお可哀想なエドワード殿下……!)
またしても勝手な同情を集めていることに、エドワード王子は気づいていない。
眉をつり上げたエドワード王子は、近くに立つ執事マルケスに声をかけた。
「あの兄妹のダンスが終わったら、俺とマリアが踊るんだよな?」
この質問には、さすがの執事もギョッとした。
「え? エドワード殿下、聖女様と踊る予定でいらしたのですか?」
「は? どういう意味だ?」
「いえ。その、ダンスの練習をされていなかったので、もう踊るつもりはないのかと思っておりました」
執事の返答に、今度はエドワード王子が「?」という顔つきで執事を見る。