心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
ダンスを終えた聖女マリアとグレイに、会場中から大きな拍手が送られる。
マリアは少し照れた様子で、周りをチラリと見た。
皆優しい笑顔でマリアとグレイを見つめ、手を叩いている。
「ミスしなかったな」
「うん。よかった……!」
グレイからの言葉にマリアが笑顔になった時。
2人の周りで踊っていた令嬢達が、男性パートナーに左手を握られているのが目に入った。
なんだ?
そうグレイが思った瞬間、男性陣が皆その左手にキスをしている。
男性が女性の左手にキスをする──ミアのキスだ。
ミアのキスは『あなたは私のもの』という意味である。
簡単にはしない、この国特有のものだ。
たまたま2人の周りで踊っていたペアが、全員相思相愛の婚約者同士だったのだろうか。
しかし、よくよく周りを確認してみると、ダンスを終わった後にみんな男性からキスをしているようだった。
右手にキスをしているペアは、特に深い関係ではないのだろう。