心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「今日は聖女セレモニーだぞ! まだ終わってないのに、マリアが帰ってどうするんだ!」
プンプンと怒っているエドワード王子が、執事とグレイに向かって怒鳴る。
グレイはそんな王子に冷たい視線を浴びせながら、静かに言い返した。
「陛下が決めたことです」
「そっ、それでも、帰りたいなら兄だけ帰れ! マリアは俺が送っていくからまだここに……」
「マリアもお兄様と帰りたいです」
エドワード王子の怒鳴りを止めたのは、マリアである。
グレイだけ先に帰ってしまうかもしれない、という焦りを感じたマリアは、つい口出ししてしまったのだ。
グレイの口元がニヤリと怪しく笑ったのを、レオは見逃さなかった。
「……とマリアも申しておりますので、これで失礼いたします」
「ぐっ……!」
歯を食いしばるエドワード王子を一瞥して、グレイは歩き出した。
「エドワード様、さようなら」
「あっ、俺……ぼ、僕も失礼します!」
マリアとレオも慌てて挨拶をしたが、エドワード王子はグレイを睨みつけたまま返事をしなかった。