心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 お兄様……。



 ついグレイに助けを求めてしまう。
 あの日、マリアを檻から解放してくれた日のように、この暗く恐ろしい記憶から救ってほしい……と。


「……まだ起きてるかも」


 そうボソッと呟くと、マリアは枕を抱きしめたまま、そっとベッドから下りて扉に向かった。

 マリアの部屋の前には、毎晩護衛騎士が1人立っている。
 その騎士に、グレイの部屋を訪ねていいのか聞いてみようと思い扉を開けると……。


「……ガイル?」

「はい。マリア様。どうかされましたか?」


 部屋の前に立っていたのは、騎士ではなくガイルだった。
 なぜ執事であるガイルがいるのかはわからないが、知った顔であったことにマリアはホッと安心した。


「あの、お兄様はもう寝てる?」

「まだ起きていらっしゃいますよ。会いに行かれますか?」

「いいの?」

「もちろんでございます」


 まるで、マリアが部屋から出てきてこう言い出すのをわかっていたかのようだ。
 だから今夜はガイルが立っていたのだろうか。

 マリアは不思議な感覚に襲われたが、純粋にグレイに会えることが嬉しかった。
< 483 / 765 >

この作品をシェア

pagetop