心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
うまく説明できた自信はないが、グレイはなんとか状況を把握してくれたらしい。
「……なるほどな。近いうちにまた王宮に呼ばれると思うが、その時に話してみよう」
「…………」
イザベラをどうするつもりでいるのか、グレイに尋ねようとしてマリアは口をつぐんだ。
なんとなく、聞かないほうがいい気がしたからだ。
グレイはちょこんとベッドに座るマリアの頭をポンポンと優しく撫でる。
「気にするな。もう、今日は寝ろ」
「……うん」
マリアはもう一度毛布を被り、横向きに寝転がる。
まだ眠くはなかったが、グレイに見られているため目を瞑った。
さっきまでは怖くて仕方がなかったのに、もう恐怖は感じない。
大混乱の貴族達の姿を思い浮かべても、心が乱されることはなかった。
お兄様といると、こわくない……。
そのうち、パラ……と本のページをめくる音が聞こえてきた。
グレイがまた本を読み始めたらしい。
すぐ近くから聞こえてくる小さな紙の音、まだグレイが起きているという安心感。
眠気がなかったはずなのに、だんだんとマリアの意識が遠のいていく。
無意識にグレイの服の裾を握りしめていたマリアは、そのまま深い眠りに落ちていった。