心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
67 10年後
小さな手で自分の服を掴まれ、すやすやと心地良く眠っているマリア。
そんなマリアの頭を、優しく撫でる自分──。
懐かしい夢を見たグレイは、ボーーッとした状態でゆっくりと起き上がった。
朝日がまだ出たばかりの、少しだけ明るい部屋。
だいぶ早い時間に目覚めてしまったらしい。
「……なぜ、あの頃の夢を……?」
誰もいない部屋でボソッと呟く。
グレイは艶のある黒い前髪を軽く上げ、ヘッドボードに寄りかかった。
初めてマリアが自分の部屋で寝た日の記憶。
10年も前のことだ。
あれ以来、月に何度かマリアと一緒に寝るようになっていたが、そのことを夢で見るのは初めてであった。
また眠る気にならず、グレイは着替えを済ませてから執務室に向かった。
静かな邸内。
こんな朝早くから働いているのは、花の手入れをしている庭師と、朝食の準備をしている料理人だけではないだろうか。
……そう思っていたのに。
「……なぜ、起きてるんだ?」
執務室の扉を開けたグレイは、中に立っている人物を見て目を細めた。