心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「……あの女は、変わらずなんだな」


 報告書をパラパラと確認しながら、グレイが呟く。
 両腕を腰に回し、姿勢良く立っているガイルがすかさずに答えた。
 

「はい。記憶が戻った気配はなく、今も楽しそうに孤児院で働いているそうです」

「……ふん。まぁ、今後も監視は続けろ。それと、孤児院に今年分の寄付もな」

「かしこまりました」


 グレイの実の母であるイザベラ。
 マリアを監禁し虐待していたことにより王宮に捕まっていたが、受けた罰に耐えきれず記憶喪失になっていた。

 そのイザベラの処遇を求められたグレイは、孤児院で働かせることを提案した。

 イザベラが元々優しく穏やかな性格だったこと、マリアが厳しい罰を望まなかったことなどが理由である。
 万が一記憶を思い出すことを考えて監視をつけているが、10年経った今でも記憶は戻っていないらしい。

 ちなみに、ジュード卿の頃から聖女監禁を知っていた執事のキーズは、重罪として処刑されたのだが……マリアにはその事実は伝えていない。


「この報告書は処分しておけ」


 そう言って次の書類に目を通したグレイは、またまた表紙の文字を見て顔を深く歪めた。

『婚約の申し出一覧』


「……またか」

「グレイ様が面倒に思われるのである程度まとめて報告しておりますが、毎日届いております。いい加減、お相手を決められた方がよろしいかと」

「当分結婚する気はない」

「結婚はされなくとも、婚約者がいない状態ですと申し出が止まりませんよ」

「婚約者も作るつもりはない!」


 ギロッと睨みながら強く言い切るが、ガイルが怯えることはない。
 他の使用人にこんな態度をしたなら、皆慌てて謝罪するというのに……とグレイは苛立った。
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