心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「……新しい服を買えば良かっただろう」
やっと出た言葉は、そんな責めるような言葉になってしまった。
「そう提案されたんですけど、少しでも早く帰りたかったから断ったんです」
「そうか。だから、こんなに早いんだな? ……なぁ、レオ」
グレイに名前を呼ばれて、扉の向こう側からレオが顔を出した。
まるで、これから怒られるのがわかっている子どものように、気まずそうな顔をしている。
「やぁ、グレイ。久しぶり〜……で、えっと……いつから気づいてたの?」
「マリアがいるのに、マリアの護衛騎士であるお前がいないわけがないだろ」
「あはは。ですよね〜」
立派な騎士の格好をしたレオが、頭を掻きながら部屋に入ってくる。
ふわふわの猫っ毛は、大人になっても変わらないままだ。
「こんな早朝に帰ってくるとは、どういうことだ? 騎士団と共に行動していたら、まだ馬車を出す時間ではないはずだが」
「んんーー……それは……」
「私がレオにお願いしたの! もう近くまで来ていたし、早くお兄様に会いたくて……」
レオが返答に困っていると、すぐにマリアがレオを庇った。
眉を下げて瞳を潤わせているマリアを見たなら、大抵の人はすぐに許してしまうことだろう。
グレイは椅子から立ち上がり、マリアの目の前に移動した。
高さのある靴を履いているとはいえ、ついこの前まで自分の胸元くらいにあったはずのマリアの頭が、今は顎の下にある。
グレイを見上げているその顔の近さに、マリアの成長を改めて感じた。