心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「ただいま。お兄様っ」


 いつからか、長く家を空けて帰ってきた際には、こうしてグレイに抱きつくのがお決まりとなっている。

 10年間続けていること。
 両親に愛されてこなかったマリアの、グレイに対する甘えた行動。

 いつもなら頭を撫でて、おかえりと言って甘えさせるのだが──。

 グイッ


「!?」


 グレイは、何も言わずにマリアの身体を優しく離した。

 おかえりという声かけも、頭を撫でることも、マリアが満足するまで好きに抱きしめさせることすらしない。
 いつもとは違うグレイの行動に、マリアは目を丸くした。


「お兄様……?」

「あ……」


 キョトンと自分を見上げるマリアを見て、グレイはハッとした。
 自分がマリアを拒否したことに、今気づいたらしい。

 マリアと同じくらい驚いた顔をしている。

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