心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「やっぱりまだ怒ってる?」
「いや。怒ってはいない」
「じゃあ、なんで……」
拒否されたショックで、マリアは涙目だ。
なんとか弁明したいところだが、困ったことにグレイ自身もなぜ自分がこんな行動をしてしまったのか、わかっていなかった。
なんだ……?
マリアに抱きつかれた瞬間、身体がやけに熱くなった。
思わず引き離してしまったが……。
「とにかく、怒ってはいない。……おかえり。マリア」
そう言ってマリアの頭を撫でたが、マリアは納得のいかない顔でグレイをジトーーッと見つめている。
これでは誤魔化せなかったとわかっていても、グレイは他に何をしたらいいのかわからなかった。
グレイの中に、抱きしめ返すという選択肢はない。
そんな2人の様子を見て、ガイルとレオが無言のまま目を合わせる。
本人でさえわかっていないグレイの行動理由に、2人はなんとなく……いや、確実に気づいていた。
その2人から、呆れたような視線、しらけた笑顔を向けられていることに、グレイは気づいていない。