心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイにとって父と女の死はほんの些細な出来事だったが、母イザベラにとっては衝撃的な事件である。
時には大喜びをして歓声を上げたり、時には屋敷に響き渡るほどに泣き叫んだり、時には怒り狂った叫び声を上げて大暴れしていた。
そんな狂った母親は、ジュード卿が死んで1ヶ月後に突然正気を戻したかのようにグレイを呼び出した。
母と息子がまともに顔を合わせるのはいつぶりだったのだろうか。
「この家は私が支えます。死んだ主人の代わりに、私が新しい伯爵家当主として立派にお勤めを果たしましょう」
イザベラが堂々とした態度で発言した。
冷静を保っているようだが、その瞳に生気は感じられない。青白く真っ白な肌、痩せてガリガリの身体、痩けた顔、艶をなくしたボロボロの髪。
まるで生きる屍が喋っているようだ、とグレイは思った。
いくらこの国では女性も爵位を継げるとはいえ、通常であればこんな精神を壊している者に家を任せたりなどしない。
だが昔からいる執事も数人のメイドも、誰も止めようとする者はいなかった。
死んだような目で成り行きを見守っているだけだ。
使用人もみんなおかしいのか?
……それもそうか。まともな人間なら、とっくにこんな屋敷の使用人なんて辞めているだろうからな。
そんなことを考えつつ、イザベラの報告に反対をしなかったのはグレイも同じだった。
どうでも良かった。こんな家にも自分にも愛着がない。
たとえ自分が野垂れ死にすることになっても構わないとさえグレイは思っていた。