心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「どうした? エミリーがデザートを取りに行ってくれたのに、元気ないじゃないか」
原因はわかっているが、レオはあえて気づいてないフリをした。
グレイの態度がおかしいことを指摘してしまうと、どうか気のせいであってほしいと願ってるマリアの期待を壊すことになるからだ。
マリアはクッションを抱きしめたまま、おずおずとレオを見上げた。
宝石のような黄金の瞳。白い肌に小さな唇。毛先にいくにつれ波打つプラチナブロンドの長い髪。
真っ直ぐに見つめられたなら、一瞬で胸を射抜かれてしまうほど神秘的で美しいその姿。
うっ……!
このマリアの上目遣いに、何人の騎士や出会った人達が心を奪われたことだろうか。
聖女としての憧れや尊敬とは別に、純粋に恋心を抱いてしまう者が後を絶たない。
そんな者達からマリアを遠ざけるのも、レオの仕事であった。
通っていたセントオーストル学園の武術部を卒業し、騎士への道を着々と歩んできたレオ。
そんなレオが聖女マリアの護衛騎士になるまで、そう時間はかからなかった。
マリアに魅了されることなく、騎士としての役割を果たせる人材はレオしかいなかったのである。